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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)775号 判決 1963年11月12日

主文

原審判決中、上告人敗訴の部分を破棄する。

右部分に関する被上告人の控訴を棄却する。

訴訟費用は、各審を通じ、被上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡本共次郎の上告理由について。

原審判決は、上告人と訴外新田左恭間に成立した県知事の許可を条件とする農地の売買において買受人において本件農地を第三者に転売したときには売主は転買人に対し所有権移転の許可申請手続をする旨の合意が成立したことを認定し、かつ右合意が有効であることを判示して、売主たる上告人に対し、転買人たる被上告人に対する農地の売買を理由として農地法第三条に定める県知事に対する許可申請手続をすべき旨を命じていることは、その判文上明らかである。

しかし、当裁判所は、かかる合意は無効であり、したがつて、これにもとづき県知事に対する許可申請手続を命ずることは許されないものと解する。けだし、農地法第三条に定める農地の権利移動に関する県知事の許可の性質は、当事者の法律行為(たとえば売買)を補充してその法律上の効力(たとえば売買による所有権移転)を完成させるものにすぎず、講学上のいわゆる補充行為の性質を有すると解されるところ、かりに、本件のように、売主と転買人との間に売買にもとづく所有権の移転につき県知事の許可がなされたとしても、売主と転買人との間に権利移転に関する合意が成立していない以上、右県知事の許可があつても所有権移転の効力を生ずることはない。したがつて、このような効力を生じえないことを目的とする県知事に対する許可申請手続をする旨の合意も、また、おのずから無効と解せざるをえない。このような合意を、売主と転買人との間にすでに所有権など権利移転の効力が生じているときの不動産登記手続におけるいわゆる中間省略の登記の合意と同視して、有効と解することはできないのである。

そして、原審は、挙示の証拠により、本件農地は上告人より訴外新田に、右新田より訴外中島に、右中島より被上告人に順次売り渡されたという被上告人主張の事実を確定しているのであり、本件の場合においては、売主たる上告人と転買人たる被上告人との間に権利移転に関する合意がないことが明らかであるから、上告人と新田との間に前示のような許可申請手続に関する合意があつても、被上告人が上告人に対し右申請手続を請求することができないことは、前段に説示したところにより明らかであり、右合意を有効とする原審判決は法令の解釈をあやまつているといわざるを得ず、この点で本件上告はその理由があり、原審判決は、上告人敗訴の部分について破棄を免れない。

そして、被上告人の本訴請求は主張自体理由がなく、これを排斥した第一審判決は、当審とその理由を異にするが、結論において正当であるから、被上告人の本件控訴は理由がないものとして、これを棄却すべきである。

よつて、原審判決中、被上告人の請求を認容した上告人の敗訴部分を破棄し、民訴法四〇八条一号により右部分に関する被上告人の控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき同法八九条、九六条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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